業界にはびこる麻薬・競合プレゼンの使いすぎにご注意を。

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半月以上前に読んだ記事で恐縮ですが、どうしてもブログに書き残しておきたいことがあったので取り上げさせていただきます。少々長くなりますが、お付き合いください。

・Cripsin、VWの別れ。去る広告主は追わず[Ad Innovator]
http://adinnovator.typepad.com/ad_innovator/2009/08/cripsinvwの別れ去る広告主は追わず.html

 米マイアミのクリエイティブエージェンシーCrispin Porter + Bogusskyは、VWのアメリカのメインエージェンシーとして4年間の関係を続けてきたが、VWが他社を含めた広告会社の選択のための競合プレゼンをするにあたり、「我々は現在担当している広告主への競合プレゼンは参加しない。これはVWであっても例外ではない。VWの幸運を祈る」という声明を発表している。

この記事を読んで私が真っ先に思い浮かべたのが、仲畑貴志さんが『みんなに好かれようとして、みんなに嫌われる。勝つ広告のぜんぶ』という本の中で競合プレゼン(コンペ)について語られた以下のくだり。

競合プレゼンに勝つための、接待広告が危険である

 広告表現の競合コンペは、基本的にやらない。競合プレゼンテーションには問題があるからである。
 われわれ広告表現の職人も商売で、商売である限りは仕事にしなければいけない。仕事をするには取らなければならない。競合で何度も負けつづけると、事務所の空気が暗~くなる。いつもは仕事が終わると「パア~ッと飲みに行きましょう」などと騒ぐ男が、コソコソと帰って行ったりする。これはイカン。事務所の空気が暗くなるだけではなく、このまま負けつづけるとゴハンが食べられなくなる。次はどうしても取らなくてはイカンなどと考え出すと道を誤ってしまう。プレゼンのときに、クライアントの商品を売るための表現ではなく、自分たち広告屋の商品である広告表現を売るための提案をするという、最低の行為に走ってしまうのだ。
 仕事を取るために、クライアント好みの広告、クライアントにウケる広告、クライアントをヨイショする広告を提案する。コンペで勝つためのこのようなクライアントに媚びた広告をわたしは接待広告と呼ぶ。本来、ターゲットである消費者の心を奪う意図でこさえられるべき広告が、クライアントがターゲットとなり、クライアントの心を奪う目的でこさえられたとしたら、良い結果は得られない。生活者とか消費者と呼ばれる、姿も心も捉えにくい多くの人々の関心を得ることに長けている広告屋のプロなら、たった数人でジャッジするクライアントの欲求と好みを読んで、「あなたたちのほしいのはこれでしょ」と差し出すぐらい簡単である。ターゲットに向くべきベクトルが、発信者であるクライアントに向くという、完全に転倒した広告表現が効果を生まないのは当然である。
 競合プレゼンの目的は、より広くより多くの知恵を求めて、より新鮮で効果的な広告戦術を得ようとすることと、同じ組織とつづけることによる馴れ合いを防ぐため。だとしたら、斬新な知恵を得るどころか、仕事を取るための、クライアント好みの提案にハメられる危険は、馴れ合いが生むという訴求力の低下より恐ろしい。

いかがでしょう? 私はこれを読んで、その通りだと思いました。

広告会社の人間にとって競合プレゼンというものはいわば麻薬に近いものがあります。苦労して準備した競合プレゼンに勝てれば、それこそ天にも昇る高揚感が味わえます。

私自身は麻薬を打ったことはありませんが、おそらくクライアントから「社内で協議した結果、御社に決定しました」という言葉を引き出した瞬間などは、アドレナリンが一気に噴き出して、それこそ麻薬を打った瞬間にも匹敵するぐらいの恍惚感があるのかもしれません。

だから、広告会社からも競合プレゼンに対してあまり否定的な意見は聞かれないように思います(それ以外の理由もあるんですが)。

そして、一方のクライアントの担当者にとっても、仲畑さんが指摘するように、「より広くより多くの知恵を求めて、より新鮮で効果的な広告戦術を得ようとすることと、同じ組織とつづけることによる馴れ合いを防ぐため。」という目的があり、また競合プレゼンを実施することで広告代理店選びの透明性が図れ、その理由が明確になる、金額の安い代理店を選べるなどのメリットもあることでしょう。

ただし、現実問題として競合プレゼンは良い面ばかりではなく、上に書かれているようなデメリットも多分に含んでいることは理解する必要があるのではないでしょうか。

おそらくクライアントの担当者の方は、「じゃあ、どうすればいいのよ?」という疑問が残ると思いますが、そのひとつの解決策が以前のエントリーで紹介した米国VW社の総責任者K・ H・ハン氏の代理店選びの方法にあると思います(冒頭の記事にあるクライアントが米国VW社というのが、なんとも皮肉な話ですが)。

ハン氏は新しい広告代理店選びに際し、過去1年分の雑誌・新聞をめくり、自分が気に入った広告を切り抜き、それを制作した広告代理店を秘書に調べさせました。結果、切り抜かれた広告の70%がDDBによって制作されたものでした。そこでハン氏は競合プレゼンを実施せず、DDBを代理店に選んだのです。

私はクライアント側に立ったことのない人間なので、クライアントの担当者の方からしてみれば、「そんなこと言ってもお前、オレらそんなに暇じゃないんだよ」とか、「ウチの会社は伝統的に競合プレゼンでしか広告代理店は選ばないんだよ」などの反論もあることと思います。

ただ、それでも私がここであえてこうした意見を取り上げたのは、これまであまりにもこうした意見が聞かれることが少なかったので、仮に競合プレゼンを実施するにしても、そのメリットだけでなくデメリットも知っておくべきではないかと感じたからです。

また、仲畑さんの本には、次のようなことも書かれています。

毎年、競合をするという浪費。

 広告制作者が疲弊している。かたちにならない競合プレゼンテーションが連続しているからだという。
 仕事は好きだから、忙しいのは別にかまわないのだけど、やみくもなプレゼンテーションが多くて、それがつらい」というのである。
 たとえば大きなクライアントの場合、平均4社ぐらいの競合になるらしい。そして、彼の会社では3チームほどが結成されるという。その1チームで20案ほどを出し、中から数案に絞り提出するから、他社も入れ単純計算すると、240分の1で提案が日の目を見る可能性を持つ。宝くじよりは良いけれど、0.416パーセントほどの確率となる。
「たまたま取っても、勝ったという気がしないですね、当たったって感じです。だから、逆に負けたという屈辱感もなくていいですけどね」と笑った。
 しかし、クライアントが数社に競合をさせ、それを受けて多くのチームを立てるのは、それぞれの広告会社思惑であるから、結果、低い率の勝ち目になるのはしかたがない。
 それよりわたしの疑問は、現在オン・メディア中の広告が評判も悪くないというのに、1年過ぎると約束事のように競合プレゼンが行われることである。
 ヒトは思いの多寡によって前傾姿勢をとったり、逆に捨てばちになったりする生物だ。良きパートナーシップが確立され、信頼を得ていると思うと、強い力を発揮する。
 良い広告制作者に出会ったら、数年はそのチームに連続して仕事をまかせるべきである。長く付きあうほどに、企業、マーケット、商品についての情報の摂取と蓄積が豊かになる。そして愛情が芽生える。
 毎年、制作者を変えるようでは商品もすこやかに育たない。子供の育成を考えてみても、年ごとに育てる人物が変わるような環境では、その子はすこやかに育つわけがない。それに、だいいち不幸ではないか。

というわけで、くれぐれも競合プレゼンの使いすぎにご注意を。

なお、今回長文引用させていただいた仲畑さんの本はまだ読んでいないという方には心からおすすめします。私などは重要箇所にアンダーラインを引こうと思って読み進めたものの、途中でアンダーラインを引くことをあきらめました。

理由は、アンダーラインを引いていったら、本が1冊丸ごとアンダーラインだらけになるからです。それぐらい重要な論点にあふれた本です。

また、上の文章を読んでいただいてもわかる通り、小難しい言葉が一切使われていないのもすごい。

これは自分がバイブルだと思っている『明日の広告』の佐藤尚之さんや『広告コピーってこう書くんだ!読本』の谷山雅計さんにも共通することですが、やはり人に何かを伝えることを仕事にしている広告マンは、このようにいかに伝えたい内容を噛み砕いて、相手に伝わる言葉を選んでいくかってのが、重要なセンスだと思います。

私が頭悪いだけかもしれませんが、「エンゲージメントがどーしたこーした」「カスタマーリレーションシップがうんたらかんたら」言われても、そんな話はまったくもって頭に入ってきません。

あっ、話が脱線しましたね。仲畑さんの本、本当に良いですから、騙されたと思って読んでみてください。私もこれを機にあらためて読んで、全文暗記に挑戦してみようと思います(?)。

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往年の名コピーに通じるものがある全日空「夢見るヒコーキ。ANA」のCM

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山手線や京浜東北線などのトレインチャンネルでずっと前から流れている全日空の「夢見るヒコーキ。ANA」のCM。

先日、脊髄反射で紹介した「機動戦士ガンダム戦記」のCMと違って、不思議なことに見るたびに段々好きになっていきます。

見てみると映像もこだわっているし、音楽もいい。そして細かいことですが、最後の「夢見るヒコーキ。ANA」のフォント(書体)がかなり好き。

どうしても最近のクライアントや広告会社の人たちは速効性を重視するので、こういうゆっくりじんわり効いてくるクリエイティブや息の長い広告キャンペーンが生まれづらい。そうした意味でも、こういう広告はきちんと評価すべきだと思って紹介しました。

あと、このCMって個人的には仲畑貴志さんが手がけたJR九州の往年の名コピー「愛とか、勇気とか、見えないものも乗せている。」や「夢とか、希望とか、見えないものも乗せている。」に近いかな、なんて感じています。

飛行機や電車って、とかく単なる輸送機関と思われがち。でも、実際には人や物だけではなく、乗っている人たちのさまざまな感情も一緒に乗せて運行している。

そういうことをちゃんと広告を通して伝えることって、もちろんユーザーに対しても有効だと思うんですが、それ以上にインナー(会社の中で働く人たち)の意識にも好影響を与えていると思います。

人間って何もお金だけのために良い仕事をしようって思うわけじゃないでしょ。自分たちの仕事に高い価値を見い出せれば、それは良い意味で仕事へのモチベーションになり得るはず。

きっとこのCMを見て、「そうか。オレたちがやっていることって単に人や物を運ぶだけの仕事じゃないんだ。きちんと意味のある仕事なんだな」って自分の仕事の価値を再確認できた人って多いと思いますよ。

ところで、ここで書いたことを「Twitter」に書いていたら、敬愛する「@tadafusahonda」さんが「ぼくも好きです。で、これにちと似てますよね」と言って教えてくれたのが、こちらの「Air France」のCM。

なかなかステキな映像なので、おまけで紹介しておきますね。


なぜかタイトルだけが記憶に刷り込まれている映画「Do The Right Thing」

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存在は知ってはいるけど、まだ1度も観たことがない映画。そして、なぜかタイトルだけが記憶に刷り込まれている映画。それがスパイク・リー監督の「Do The Right Thing」。

直訳すれば、「正しいことをしろ」という言葉になるんだろうか?

不思議なのは、1度も観たことがない映画のタイトルのはずなのに、自分が本意ではない行動や間違っているとわかっていることをしようとすると決まってこの「Do The Right Thing」という言葉が頭をよぎること。

「Do The Right Thing」。

でも、本当は誰だって何か正しいのかなんてわかっちゃいない。100%正しいことなんてないのかもしれない。きっとスパイク・リー監督もそのあたりはわかっているはず。

だから、自分なりに意訳して、「自分が正しいと信じることをしろ」という意味だと受け止めている。

スパムメール、ステルスマーケティング、ユーザーを小馬鹿にしたキャンペーン。プランニングをしていてそんなものが頭に浮かんだときには、一度立ち止まって口に出してみると良いと思う。

「Do The Right Thing」。

あなたのやろうとしていることは、本当に自分が正しいと信じてやっていることですか?

なんて、柄にもなくちょっとカッコいいこと言った後なので、最後に少しおもしろ話。

「Wikipedia」でこの映画「Do The Right Thing」のページを調べたら、次のような解説がありました。

ドゥ・ザ・ライト・シング (映画) - Wikipedia

第44代アメリカ合衆国大統領バラク・オバマが妻のミシェル・オバマと初めてのデートで観に行った映画が本作である。ニューズウィーク誌は、「一生に一度は観る価値のある映画ではあるが、デートで観るような内容の映画ではない」と評している。

なるほど。あらすじを読む限りアメリカの人種差別問題を取り上げた映画なので、デートで観るような映画ではないかもしれないですね。

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